~医療の知恵~がん薬物療法とは

カテゴリー: ~医療の知恵~ パーマリンク

がん薬物療法とは、従来「抗がん剤治療」と呼ばれていた治療法です。
従来の抗がん剤を「細胞障害性薬剤」と呼ぶのに対して、がん細胞をより特異的に抑える薬を「分子標的薬」とよびます。

「細胞障害性」とは、おもに細胞の核であるDNAの代謝を抑制することを指します。がん細胞は分裂が速いので、細胞のDNAも障害を受けやすくなっています。一方で、普段分裂していない正常な細胞は障害を受けにくく、また、障害を受けてもきちんと修復する機能を持っています。その修復に一定の期間を要するので、休みながら治療を行います。粘膜や血液の細胞がより強く障害を受けるので、副作用として口内炎ができたり、白血球が減少したりするのです。

3

がん細胞には、生存や増殖に頼っている細胞内の蛋白質があります。いわば細胞増殖の司令塔のようなものであり、その蛋白質の働きを特異的に阻害すると癌細胞は増殖することができなくなります。正常な細胞にもそういった蛋白質はありますが、がん細胞ほど頼りにしていなければ、分子標的薬による障害も少なくなります。一方で、分子標的薬にも特有の副作用が生じます。副作用をきちんと理解して予防できるものは予防し、発症時は早期に対処することが重要になります。副作用をきちんとケアすることで、薬物療法を続けることができますし、効果も期待できます。

がんの薬物療法では、こうした「細胞障害性薬剤」と「分子標的薬」を組み合わせて行う、もしくは順番に行うことが一般的です。

急性白血病や悪性リンパ腫などでは、薬物療法によって一定の確率で治癒をもたらすことができます。この場合は、薬物療法が治療の主役となります。しかし、治癒をもたらす治療法では、比較的高い確率で副作用を生じます。特に白血球の減少と感染症が重要な課題です。

4その他のがんでは、薬物療法はその目的によって、いくつかに分かれます。

手術の前に病気を縮小させる「術前化学療法」、手術の後で再発を減らす目的で行う「術後化学療法」、放射線治療との併用で効果を高めるために行う「併用療法」、 再発、あるいは手術が困難な場合に、根治はできないのですが、より長く過ごすことを目的として行う「救済化学療法」などです。

生体内では、異物を排除しようとする免疫機能が働きます。がん細胞を除去しようとする免疫細胞 (T細胞等) も存在するのですが、がん細胞は T 細胞からの攻撃を受けずにすむようなシグナルを有しています (PDL-1 等)。このシグナルを抑制して、T 細胞の攻撃を活性化してがん細胞を抑制する薬が免疫チェックポイント阻害剤 (オプジーボ等) です。

多くの薬物療法は、通院で治療を続けることができます。つまり、日常生活を自宅で過ごしながら、あるいは仕事を続けながら、薬物療法を継続し、がんを治癒させたり、病状を安定させたりすることが可能になってまいりました。
薬剤ごとに内服のみのもの、点滴のみのもの、両方の剤型があるものに分かれます。内服は自宅で、点滴は病院で治療を受けるのが原則ですが、なかには点滴を特殊な容器に入れて付けたまま、自宅で治療を続けるものもあります。

また、担当の医師だけでなく、がん薬物療法に詳しい看護師や薬剤師によって、治療の説明や副作用の対処法についてサポートする体制が整ってまいりました。通院で治療を行う場合には、薬物療法専門のスタッフのもと、専用のベッドで点滴治療をおこなうことができます。治療中の副作用について直接スタッフと確認しながら、安心して治療を継続することができます。

がん薬物療法の目標は、患者さんの病状によって分かれます。がんを治すことを目標としているのか、治すことはできないけれど進行を止めて、より長く過ごすことを目標としているのか、など、ご自分が受けられる治療がどのような目的を持っているのかをしっかりと認識し、納得されることがとても重要です。薬物療法は必ずなんらかの副作用を伴います。そのため、治療の目標が患者さんご自身の希望にしっかりと沿うものであることが大事です。担当の先生の説明を十分に聞かれて、相談なさってください。

輸血部 部長 牟田 毅