日本赤十字社 広島赤十字・原爆病院

手術支援ロボット「ダビンチ」

先端ロボット手術センターのご紹介

広島赤十字・原爆病院では、2020年3月より、患者さんの術後負担を軽減し、早期回復を可能とするロボット支援手術システム「Da Vinci X™」の運用を開始しました。現在、泌尿器科及び外科(消化器/呼吸器)で適応症例を増加させ、2025年9月までに約500例の手術を終えました。より難度の高い疾患への適応や効率的なシステムの活用、領域を横断した知見の獲得により医療のさらなる質の向上を目指し、2025年10月に「先端ロボット手術センター」を設立する運びとなりました。

手術支援ロボット「ダビンチ」の拡充

手術支援ロボット「ダビンチ」について、1度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。ダビンチはアメリカのインテュイティブ・サージカル社が開発し、1999年にヨーロッパで運用が始まりました。2021年には、世界で約5400台、日本では約400台が使われています。手術支援ロボットといっても、実際にロボットが自分で手術するわけではありません。医師がロボットの腕を遠隔操作して行う手術で、これまでの手術に比べ「より細かく正確に、体への負担も少ない」というメリットがあります。その手術支援ロボット「ダビンチ」の特徴や、当院が行っている術式などをご紹介します。

ダビンチの「ペイシェントカート」と「ビジョンカート」

「ペイシェントカート」には医師が操作する4本のロボットアームがついていて、その先端に切開・縫合などをする器具や内視鏡を取りつけます。「ビジョンカート」には内視鏡カメラの映像が表示され、サージョンコンソールで操作を行っている医師が見ているのと同じ映像を、ほかのスタッフも共有できます。

サージョンコンソール

操作技術を習得した専門医師がロボットアームの操作を行います。ロボットアームは医師の手の動きと完璧に連動し、自分でメスを持っているような感覚で手術ができます。

ダビンチの特徴

  • ロボットにしかできない動き

人間の手は2本しかありませんが、ダビンチは3本のアームで手術を進めます。医師の手として切開・縫合などをする器具は従来のメスや針よりも小さく、かつ人間の手首では不可能な360°の回転ができ、狭い空間でも自由に操作できます。また、手ぶれを補正する機能もあり、細い血管の縫合や神経の剥離など高い集中力を必要とする細かな作業を、正確に行うことができます。

  • 鮮明で高画質な映像

医師の目となる内視鏡は、鮮明かつ立体的なハイビジョン画像と、術野を10倍まで拡大するズーム機能によって、術者による質の高い手術が可能です。

  • 体への負担が少ない

手術部位の近くに数箇所空けた7~20mmほどの切開創から手術を行うため、傷が小さく大きなあとを残しません。また、出血や傷の痛みも少なく術後の早期回復が見込めることから、早く退院できる可能性が高くなります。

教えて!ダビンチ手術の術式

当院で実施しているダビンチ手術のメリットについてお話します。

膵臓がん、肝臓がん( 消化器外科 )

肝胆膵領域の手術は難度が高く消化管手術と比較して腹腔鏡下手術の普及が遅れ、開腹手術でしかできない手術が多くあります。一方、ロボット支援手術は開腹手術以上の精密な操作が可能で、2022年4月には膵体尾部切除術、膵頭十二指腸切除術、肝切除が保険適応となりました。術式別に執刀医、施設基準が大変厳しく設定されており、当院では肝部分切除術、肝外側区域切除 、膵体尾部切除術を施行しています。
肝切除においては鉗子の自由度が高いため腹腔鏡の操作制限をほぼ解消し、開腹に近い自由度の高い切除が可能です。また、術後合併症が腹腔鏡下手術より少ないという報告があり今後ますますの発展が期待されています。
膵切除においてもロボット支援手術の安全性は開腹手術と同等で、予後は腹腔鏡下手術より優れるという報告が増えております。また、囊胞性膵腫瘍、リンパ節転移を認めない膵神経内分泌腫瘍、充実性偽乳頭状腫瘍など、良性〜境界悪性腫瘍に対しては脾臓を温存する脾温存膵体尾部切除を適応しております。この手術は脾動脈 脾静脈から膵臓への細い枝を全て処理する必要があり手術支援ロボットのメリットが最大限発揮される術式と考えております。

直腸がん( 消化器外科 )

直腸は糞便の排泄に関わる臓器です。早期では自覚症状はほとんどなく、進行すると血便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、おなかが張るなどの症状が出ることが多くなります。血便や下血は、痔などの良性の病気でも出る症状です。大腸がんの早期発見のためには早めの消化器科受診が大切です。直腸の手術部位は狭く奥深い骨盤内となりますが、ダビンチの多関節機能などのメリットを最大限活かせば、正確で繊細な手術が可能となります。それによって根治性の高さ、肛門・排尿・性機能などの機能温存や早期の回復が期待できます。

結腸がん( 消化器外科 )

直腸以外の大腸(結腸)に発生する癌にもロボット手術が適応となりました。特に難易度の高い高度進行癌や肥満患者さんに対しても安全な手術が可能となりました。
ダビンチの立体画像を活用したリンパ節の切除や、腸管を切除したあとの再建(つなぎあわせる)という複雑な動作をおなかの中で行うことで、患者さんに従来の腹腔鏡下手術以上に身体の負担を減らす効果が期待できます。

胃がん( 消化器外科 )

胃がんは手術後の合併症(縫合不全、出血などのトラブル)がそのまま生命予後短縮に繋がる臓器です。ダビンチ手術では、極めて安全で高精度のリンパ節郭清(摘出すること)ができるため、術後30日以内の再手術割合が有意に低い、術後在院日数が有意に短い、総医療費・手術費が有意に少ない、3年生存率が有意に高いことが我が国の大規模研究データで証明されています。他の臓器と比較しても大変ダビンチのメリットが活かせるため当院でも積極的に実施しております。

前立腺がん( 泌尿器科 )

前立腺は男性の生殖器官の一つで、膀胱の下、直腸の前に位置する、くるみほどの大きさの臓器です。前立腺がんは男性に最も多いがんであり(2021年全国がん登録罹患データ)、近年増加傾向にあります。
前立腺がんに対する根治治療としての手術(前立腺全摘除術)は従来開腹手術や腹腔鏡手術で行われていました。しかし、2013年に「ダビンチ」を用いたロボット支援前立腺全摘除術が保険適用になって以降、現在では本邦における前立腺全摘除術はロボット支援手術が標準的治療となっています。ロボット支援による前立腺全摘除術は、従来の開腹手術と比較して出血量をはじめとする周術期合併症が少ないことが示されています。また、前立腺全摘除術後には尿失禁を生じることが多いものの、開腹手術と比べるとロボット支援手術では尿失禁の頻度が少ない傾向にあります。
当院では、術後の排尿機能および性機能の温存を目的として、膀胱頚部温存手術や神経温存手術にも積極的に取り組んでおります。

腎がん( 泌尿器科 )

腎臓は、血液をろ過して尿を生成する重要な臓器であり、腎がんは尿の生成に関わる細胞にできるがんです。早期の腎がんは自覚症状がほとんどなく、大半の方は健康診断や他の疾患の精査を目的とした画像検査(超音波検査、CTスキャンなど)で発見されます。
腎がんは、腫瘍の大きさによって予後が異なります。特に、腫瘍が7cm以下であれば早期癌とされ、5年生存率は90%以上、4cm以下であれば95%以上と予後は良好です。
現行の診療ガイドラインでは、腫瘍が4cm以下の腎がんに対しては、腎部分切除術が推奨されています。腎部分切除術は、腫瘍がある部分のみを切除し、残りの腎臓を縫合して修復する手術です。以前は、この手術は開腹手術で行われており、20cm程度の大きな切開が必要で、術後の痛みや回復に時間がかかることが大きな負担でした。
しかし、2017年からはロボット支援手術が保険適用になりました。ロボット支援手術では、従来の開腹手術よりも小さな切開で済み、術後の痛みや出血、手術侵襲が大幅に軽減されます。現在ではロボット支援手術が早期腎がん治療の標準的な方法として広く行われています。
腫瘍の位置や大きさによっては、腎部分切除術が難しい場合もあります。また、腫瘍が7cm以上に達している場合、ロボット支援手術は保険適用外となります。その場合は、腎臓を全摘出する根治的腎摘除術が行われます。この手術も2022年から保険適用になっており、当科でも施行可能です。しかし、腹腔鏡手術と比較して、ロボット支援手術に大きな利点がない場合もあります。当科では、症例ごとに診療カンファレンスを実施し、ロボット支援手術が望ましい場合に行っております。

腎盂尿管がん( 泌尿器科 )

腎盂・尿管がんは、尿の通り道である腎盂や尿管に発生するがんであり、肉眼的血尿などの症状で発見されることが多い疾患です。
転移のない腎盂・尿管がんに対しては、腎臓と尿管をすべて摘出する腎尿管全摘除術が最も一般的な治療法です。一方で、局所進行がんの場合には、術前に抗がん剤を投与することもあります。
また、腎盂・尿管がんの患者さんでは膀胱がんを併発していることも少なくありません。
その場合には、膀胱がんに対する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行った後に、腎尿管全摘除術を実施します。
腎尿管全摘除術は、根治的腎摘除術と同様に、2022年よりロボット支援手術が保険適用となっており、当院でもロボット支援による腎尿管全摘除術を実施しております。

肺がん( 呼吸器外科 )

早期はほとんど無症状のため、検診などの胸部X線検査やCT撮影で偶然肺がんが見つかることが多いです。咳や痰、胸痛などは進行期の症状で、特に血痰は肺がんの可能性が高いので早めの受診をお勧めします。ダビンチによる内視鏡下手術は開胸手術より体への負担が少なく、かつ、胸腔鏡手術の欠点であった直線的な動作制限もありません。切開・縫合などをする器具の可動域が大きく(人には不可能な360度関節)手ぶれ補正機能があり、心臓の近くの血管や気管支の剥離など、緻密さが要求される作業も正確にできます。

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