2025.09.25
医療の知恵
買い物カートを押さないと歩けない?
腰から太もも、下腿にかけての痛みやしびれが生じ、長時間歩けない症状が見られる病気のひとつに、腰部脊柱管狭窄症があります。背骨の中を走る神経は、神経に栄養を与える血管とともに脊柱管という「くだ」の中を通っています。年齢が上がるにつれて、靭帯や骨、椎間板などが変形し、「くだ」が狭くなることで神経が圧迫され、下肢のしびれや痛みが生じるのが腰部脊柱管狭窄症の特徴です。この病気は50代以降に多く見られ、80代になると10人に1人の頻度で発症すると言われています。
買い物カートを押したり、自転車に乗ったりすることには問題がないのに、歩行時に症状が強まるのが特徴です。
多くの場合、飲み薬による治療で症状が軽減します。神経に栄養を与える血管の血流改善を目的とした薬物療法が行われ、必要に応じて鎮痛薬なども使用します。効果が穏やかに現れるため、1ヶ月以上の服用で症状の改善が期待されます。症状が緩和されれば、投薬治療で経過を見守ることがほとんどです。
症状が高度になると、日常生活に障害を残すため、神経圧迫を除去する手術が必要となります。ただし、弱った神経は完全に回復しないことが多く、手術後もしびれなどの神経機能障害が続く場合があります。神経周囲を圧迫する組織を切除し「くだ」を広げる手術は、数センチの切開で行える内視鏡や顕微鏡、拡大鏡を用いた低侵襲手術として工夫されています。
医学の進歩により、高齢のために改善が難しいと思われがちな症状も改善できる時代になってきています。
第二整形外科 部長 土井俊郎
